ただ一つの思い




「そう言えば、なんで手紙の返事をくれなかったの?」
「えっ?」
「7年前に、わたしが送った手紙の返事だよ」
「ああ…」
「何度も送ったのに、一度も返事が来なかったんだよ?」
 散歩中の、名雪の何気ない祐一への質問。
「…書く理由が無かったんだ」
(本当にそうか?)
 答えながら、もう1人の自分が問いかける。
「でも、返事は理由じゃないの?」
「…」
 そう、名雪の言う通り、返事も理由のはずだし、書く機会もいくらでもあった。
 それに、名雪の手紙は全部読んでいた。しかし、祐一は返事を出そうとはしなかった。
 その理由はいくら考えても分からなかった。

 祐一は今、都合がついた両親と共に、アメリカに住んでいる。
 しかし、未だに出さなかった理由は思い出せていない。
 それでも、少しずつその時の事を思い出していた。
 手紙を送られてきた時、深い悲しみに覆われていたという事は思い出した。そして、そこから先の事も全部。
 その悲しみのせいにして、名雪の手紙の返事を書こうとしなかった。
 それから1年後、ようやく悲しみから立ち直った祐一は、出せなかった手紙を出そうと思って書いていた。
 しかし、書き終わったところで、祐一は思った。
(今更送ってどうするんだ?)
 名雪なら、1年遅れで出された手紙でも、屈託も無く喜んで読むだろう。
 それを理解していても、祐一は手紙を出す事が出来なかった。
 出せなくて、折角書いた手紙を捨てる。そして、もう一度希望を託して書いて、また捨てる…
 そして、いつの間にか、手紙を書く事自体を放棄してしまっていた。
 今でも、あの時の悲しみの理由は分からない。
 名雪に心配をかけたまま、あの時は7年経ってしまっていた。しかし、それからさらに1年経った今、祐一は手紙を書いていた。
 あの時書けなかった、手紙の返事を。
 かつて一緒に住んでいたので、実際はもう書く必要が無いのは分かっている。
 それでも、祐一はペンを動かして、文字を綴り続けた。
 7年分の謝罪を込めて。
 そして最後に、「好きだぞ」の言葉を添えて…



あとがき

 名雪との、何気ない会話を元に作成しました。
 実は、このネタを使ったssって無いんですよね〜
 …でも、良いネタを見つけても、書く本人の力量があまりにも…(泣)


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