それはまったくの偶然だったけど、もしかしたら必然だったのかもしれない。
 …と、私は後になって思った。






なごりゆき。






「…どうしようかな…」

 私は、またやってしまった。
 祐一さんと会う約束をするとどうにも浮かれ過ぎて、待ち合わせの時間よりも早く来てしまう。
 かく言う今日も、実に一時間も早く来てしまった。
 …まあ、私が再び祐一さんと会えたのも数日前の事で、その辺を知ってる人は「しかたないよ」とか言ってくれそうだけど。
 待ち合わせ場所は、いつもの公園。
 仕方ないので、公園内を散歩する事にした。


 …うん、風が気持ちいい。
 最近は、暖かい…とまでは言えないかもしれないけど寒い日が少なくなって、風の吹かない今日は日差しも気持ち良かった。

「…あれ?」

 ふと日陰を見やると、そこにはまだ少し名残雪があった。
 …まあ、それ自体は特に珍しい事ではないのだけれど。それよりも木の根元にちょこんとあるそれに、私は目を惹かれた。

 それは、小さな雪だるまだった。きっと、子供たちが作ったのかも知れない。
 その雪だるまは、半分壊れかけていた。溶けたり、何かがぶつかったりしたのだろう。

「…よし、と」

 ほどなくして、雪だるまは元のかたち(かどうかは判らないけど)に戻っていた。
 …更に、その雪だるまの隣に、残った雪で一回り小さな雪だるまを作ってあげた。
 消える時は…一人よりも、二人の方がいいと思うから。

「…がんばれ」
「ん、何やってんだ?」
「え?」

 後ろを振り返ると、祐一さんの姿があった。
 少し呆れ顔で、こちらの顔を覗き込んでいる。

「わ、祐一さん」
「まあ、祐一さんだが……雪だるまか?」
「はい」
「まだ残ってるなんてな…流石にもうすぐ溶けるだろうが」
「これでも、一生懸命頑張ってるんですよ」
「まあ…そうだろうな。俺らには、どうする事も出来ないが」
「祐一さん、ちょっと冷たいです…」
「誰かさんが、待たせなければな」
「え?」

 時計を確認する。
 …いつかも、時間の経過に気付かなかった気が。

「…まあ、栞らしいといえば、それまでだが」
「む、どういう意味ですか?」
「言葉通りだ」
「…お姉ちゃんに聞かれたら、大変な事になりますよ」
「それは勘弁」
「私がお姉ちゃんの妹だって事、忘れてますね?」
「それはない」

 こちらが怒っていても、いつの間にか祐一さんのペース。
 でも、何故か不快にさせない祐一さんの言葉に、「これが私たちのペースなんだなあ」と思わせられる。
 …その時点で、ある意味祐一さんの思い通りなんだろうけど。

「さて、行こうか。このまま問答していても時間がなくなるだけだ」
「…誰のせいですか」
「さあなー」

 笑いながら歩き出す祐一さんに、私はついていく。
 ふと、後ろを振り返り雪だるまたちを見る。

「せめて、どうか最後まで淋しい思いをしませんように」

 ざぁ、と風がふく。
 少し遅い春は、もうそこまで来ている気がした。





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