ある場所。

「なあ、この街を出ないか?」
「……えっ?」

 この時はまだ、それだけの事だった。












変わる人、変わっていく町、そして幸せ












「瑞菜、忘れ物っ」
「あ、ごめん、お母さん」

 母親の持ってくる弁当箱を、微笑みながら受け取る娘。
 どこの家庭にもありそうな光景だが、一つ変わった点があった。
 …母娘の年の差が近すぎる。
 何せ、二人は十しか離れていないのだった。そう、養子なのだ。

 瑞菜が二人の許に帰ってきてから、九年が経っていた。
 まあ色々あり、今日から高校の授業が始まる。
 
「じゃあ、行ってきまーす」
「はーい、いってらっしゃい」

 元気に出て行く瑞菜を送り、ほっとため息をつく。

「お母さーん」

 後ろから声がかかる。
 朝は忙しいものだ。特に、子供が複数いると。

「はいはい、どうしたの? 瑞希」

 折原瑞希、八つ。
 実子としては長女だった。

「瑞葉が服着られなくて困ってる」
「え?」
「お母さーん」

 三女、瑞葉。まだ五つだ。
 少し離れた幼稚園に通っている。

「ほらほら、一人で着替えられたでしょ?」
「お母さんがいないと、着られない」

 暗に構って欲しいと言う、瑞葉。
 しかし、実際にはそんなに出来る訳ではない。
 朝のお母さんは、大変なのだ。











「しおちゃん、もうすぐ用意して下さいね」
「うん」

 こちらは、朝といえどものんびりした雰囲気だった。

「ママ」
「はい」
「…明日は、どこ行くの?」
「さあ……どこなんでしょう? 朋也くんが思いついて、そのままわたしにも教えてくれなかったですから」
「……楽しみ」
「はい、そうですね」

 ……益々母に近づいてゆく渚であった。













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